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  • 執筆者の写真江川誠一

働き蜂という生き方

オオスズメバチを庭で見かけるようになって2ヶ月。

石塔の地中部分に巣があるようで、1分間観察すると、その周辺の茂みで10匹程度の出入りがある。

オオスズメバチは体長30〜40mmと親指大の堂々たる体躯を誇り、気性が荒く巣や餌場に近づくだけで、大きな羽音を響かせて向かってくる。

続いて顎をカチカチと鳴らすのが最後の警告となり、立ち去らないものを敵とみなし激しく攻撃する。

毒液には仲間を呼び寄せるフェロモンが含まれているため、ターゲットは大勢に囲まれ何十か所もずぶずぶと刺される羽目になる。


決定的な敵認定を回避しつつ、行動観察を続けたのちトラップを設置し、30匹程を捕獲した。

仕掛けは、日本酒3:酢1:砂糖1のミックスジュースをペットボトルに入れ、その上部に窓を開けたもの。

来年、再生産されないことを祈りたいが、この程度の捕獲では難しいだろう。


獰猛な性格の他に私が興味深いと思うのは、その見事な社会性である。


スズメバチの成虫は、日中足繁く餌場へ通い、コガネムシやイモムシ等を狩り大顎で肉団子状にした上で巣に持ち帰る。

それらは自ら食することはなく幼虫に与え、幼虫の分泌する液体と交換される。成虫はこの分泌物と樹液をエネルギーにして、巣の拡大と守護にその一生を捧げる。

こうして個体数の増えた巣では、秋に多くの新女王蜂と雄蜂が生まれるようになる。

その後、新女王と雄はハネムーンに出かけ交尾し、その雄蜂と巣に残された働き蜂は生涯を終え、新女王蜂のみが冬を越す。

春になると女王蜂は一匹で活動を開始し、巣作りと並行して働き蜂を生み育てる。

働き蜂の成虫が増えてくると女王蜂は巣に篭り、卵が尽きるまで産み続ける。


“One for all, All for one”と人はわざわざ言葉にするが、極めて社会性の高いスズメバチの世界では、当たり前の行動である。


“1匹はコロニーのため、コロニーは一つの目的のため”であり、目的とは“新女王を数多く誕生させ、次世代へ命をつないでいくこと”である。

人からすると、スズメバチの働き蜂は犠牲を一方的に強いられる上に、自らの子を残すことができないかわいそうな存在に思える。

しかしながら、コロニー全体を一つの生物体とみなせば、働き蜂はコロニーの目的達成に向けて邁進する存在であり、その重要な役割に満足しているのかもしれない。


多くの高等な生物にとっては、個が自分の遺伝子を数多く残すことが目的となっているが、集団で種の存続を図る仕組みはこれとは異質なものである。

多様性とは何か、共同体とは何か、競争原理の合理性を過信していないか。色々と考えさせられる。


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