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  • 執筆者の写真江川誠一

GoToトラベルでの感染リスク

日本医師会の会長が、「感染増はGoToトラベルがきっかけ」という内容のコメントを残している (注1)。

この"きっかけ"という選ばれた言葉には注意が必要。"原因"、"要因"とは言っていない。

この記者会見の報道は多くの引用がなされ、一方向の世論が形成されつつある。

私は、このような日本語の曖昧さがもたらす影響については、功罪両面あるものの割と好意的に捉えており、この件に関しても、気を引き締める緩やかなブレーキになればそれでいいのかもというスタンスである(活動自粛の強いブレーキには賛同できないが)。

ただし、クリティカルに考えて検証するのが好きなので、公表されているデータで少し遊んでみたい。


<GoToトラベルを"きっかけ"にした陽性者数の定義>

10月末時点で、同事業の利用者155人と宿泊施設従業員144人の陽性者が確認されている (注2)。

よって、GoToトラベルを"きっかけ"にした一次陽性者数は299人となる (注3)。

ここから連鎖する二次、三次の感染者全てをGoToトラベルを”きっかけ”にした陽性者と定義する。


<モデル>

期間:7/22〜10/31の102日間(7/22は事業開始日)

実行再生産数(1人の感染者が次に平均で何人に感染させたか):一律1.28とする (注4)。

感染間隔:8日間で一定とする(=便宜的に検査陽性から次の検査陽性) (注5)

一次陽性者の確認日:期間中満遍なく確認されたとする(299÷102=2.93人/日)

例えば、9/27にGoToトラベルによる一次陽性者が3人確認されたとする。

上記のモデルに沿えば、8日後の10/5には二次陽性者として3.84人(3 × 1.28)、16日後の10/13には三次陽性者として4.92人(3 × 1.28 × 1.28)、同様に10/21 6.29人、10/29 8.05人で、計26.10人の陽性者を、この期間中に生じさせる計算になる。


<GoToトラベルを"きっかけ"にした陽性者数の推計>

上記のモデルに基づき計算すると、この期間におけるGoToトラベルを"きっかけ"にした陽性者総数は7,510人と推定される。


<GoToトラベルを”原因”とした陽性者数の推計>

コロナをあまり恐れずお金に余裕がありどうしても旅行に行きたいという人は、このGoToトラベル事業による補助がなくても行っただろう。

同事業の純然たる影響を測るには、この割合とそこから生じる陽性者を推計し、GoToトラベルを”きっかけ”にした陽性者から控除する必要がある。

すなわち、Without 補助のケースを設定(推計)し、WIth 補助(実績)との差をみないといけない。

こうして初めて、GoToトラベルを”原因”とした陽性者数に近づくことができる。

第一生命経済研究所は「GoToトラベルによる市場規模増加率はプラス55.1%」と事業実施前に推計 (注6)しておりそれを借用すると、Without 補助のケースにおける旅行者は64.5%(100/155.1)になり、この割合に比例すると仮定すると、陽性者は193人(299 × 64.5%)となる。

これを控除すると、GoToトラベルを"原因"とした一次陽性者者は106人(299人ー193人)、GoToトラベルを"原因"とした陽性者総数は2,662人と推計される。

ちなみに、厳密に言うと旅行に行かなくても感染リスクはあるので、これも控除する方がよいのかもしれないが、頭がこんがらかってきたのでやめておく。


<推計結果の考察>

推計結果を再掲する。

GoToトラベルを"きっかけ"にした一次陽性者数は299人

GoToトラベルを"きっかけ"にした陽性者総数は7,510人

GoToトラベルを"原因"とした一次陽性者者は106人

GoToトラベルを"原因"とした陽性者総数は2,662人

同期間におけるGoToトラベル利用者は、延べ3976万人である。

これと比較すると、一次陽性者数は極めて少なく延べ10万人に1人にも満たない。

3泊したとしてようやく10万人に2人強のリスクとなる。

同期間における新規陽性者数は、74,488人である (注7)。

"きっかけ"で10.1%、"原因"で3.6%が関係しているという結果になった。

この割合はまあまあ高いとも言えるが、そんなもんかと言う気もする。

メディアや井戸端で言われているよりは、GoToトラベルによるコロナ拡大は大したことないとも言えると思うのだが、どうだろう?


<留意事項>

仮定に仮定を重ねた推計なのは重々承知の上で、別の留意事項として2点、指摘したい。

◯そもそもの299人の信憑性

陽性確認者には積極的疫学調査によって、症状・経過と行動歴が聴取られる。

旅行はここで押さえられるが、GoToトラベルか否かは疫学的にはあまり意味がないように思えるため、保健所の担当者がどこまで積極的にこのことを尋ねるかは不明だ。

もしかすると政府等からの指示、あるいはメディア側からの圧力によって聞いているのかもしれないが。

どちらにしても、陽性者の回答は任意であり、直近2週間でのGoToトラベルの利用を伏せる方が一定程度いるかもしれないことに、留意する必要がある。

◯そもそもの原因行動

本質的にはGoToトラベルの影響ではなく、GoToトラベル中における行動形態別の影響を見るべきであることは言うまでもない。

かなり前から専門家等により、感染リスクは「接待を伴う飲食>帰省での大宴会>静かな旅行」であるなどと指摘されているが、いまだにメディアや井戸端ではこのことを無視し、GoToトラベルの是非を浅く問うことが多い。

無防備で密な空間でのどんちゃん騒ぎと、旅館でのしっぽりとした部屋食を、GoToトラベルの利用で一括りにすることは、ここまで読み進めた読者にとってほぼ無意味であろう。

本コラムもまた、そのそしりをまぬがれないことは重々承知している。

暇人の戯言してご笑欄いただければ幸いである。


3) 詳細不明だがおそらく単純に一次感染者のみと推測した。

4) https://toyokeizai.net/sp/visual/tko/covid19/ ←これによると実行再生産数は7/22 1.42、10/31 1.14である。この期間では大きく跳ねることなく減少傾向にあるので、簡便的にこの中間値1.28をこの期間での実行再生産数とした。またGoToトラベル利用者とそれ以外とで生じる差異はエイッと無視する。

5) コロナの発症間隔は3〜12日と言われているため、概ね平均の8日とした。

6) http://group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/pdf/macro/2020/naga20200624goto.pdf

7) https://www.mhlw.go.jp/stf/covid-19/open-data.html 厳密には1〜2週間後ろにずらした数字と比較すべきかもしれないが、大枠に大差ないため同じ期間で計算した。


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